“57%”は本当に民意か? 低予算×年齢偏りで膨らむ世論調査のからくり
要旨:「首相退陣の必要なし=57%」のような見出しは、低予算運用(=IVR等の簡素設計)と 年齢の偏り(未補正)、そして標本誤差が重なれば統計的に十分に出やすい。 選挙結果(実投票)と世論調査値の乖離は、設計上の構造で説明できる。
この記事の前提(立場)
- 年齢の偏りは考慮しない(事後ウエイトなし、時間帯の最適化なし)。
- 低予算で回す前提:自動音声(IVR)主体になりやすく、設問は簡素。
- 電話中心の実査で、平日日中・固定回線が含まれる状況を想定。
なぜ「57%」が出やすいのか ― 構造
- 低予算の帰結(IVR・簡素設計):コストを抑えるほど、時間帯分散・再架電・割当や事後ウエイトが薄くなり、 取りやすい層(平日日中に応答しやすい固定電話世帯・高齢層)が過大に混入。
- 代表性の崩れ(未補正):日本の人口で65歳以上は約3割だが、固定/日中に寄ると 回収の5~6割が65歳以上になるのは不思議ではない。政権評価では高齢層ほど 「現状維持」選好が相対的に強く、全体比率が上振れしやすい。
簡易感度:年齢偏り → 全体%の押し上げ
仮定:
- 65歳以上の「退陣不要」= 60%
- 18–64歳の「退陣不要」= 50%
全体= 0.60 × (65歳以上の回収比率) + 0.50 × (1 − 65歳以上の回収比率)
回収に占める65歳以上の比率 | 全体「退陣不要」推計 |
---|---|
人口比 29% | 52.9% |
45% | 54.5% |
55% | 55.5% |
60% | 56.0% |
65% | 56.5% |
示唆:母集団では約53%級でも、回収が高齢層へ+30pt程度偏るだけで +約3ポイント上振れし、「57%」に見えることが十分に起こる。
標本誤差がさらに“味方”する
95%信頼区間(p=0.57)
- n=1,000 → ±3.1pt
- n=1,200 → ±2.8pt
- n=2,000 → ±2.2pt
未補正の系統誤差(+約3pt)に標本誤差(±2~3pt)が重なると、 見出し値は容易に「57%」へ到達する。
「低予算であるはず」と言える根拠(フェルミ)
- IVRの単価感:1完了あたりおおむね700~1,000円。2,000~3,600完了で 約150~300万円級に収まりやすい(設定費は数万円)。
- CATIの単価感:1完了あたり2,500~6,000円相当。 1,000完了で数百万円。速報や高頻度運用には不利。
- よって、短期×大標本×頻度高めの世論見出しは、IVR主体で回す動機が強い。
選挙結果とかけ離れるメカニズム(要点)
- 母集団の違い:選挙=実投票者。世論調査=「電話に出た人」まで含む有権者一般。
- カバレッジ+非回答バイアス:固定/時間帯で若年・就労層が過小。
- 未補正のまま公表:性×年代×地域の事後ウエイトを掛けない/弱い。
- モード効果:IVRは離脱しやすい層が抜けやすく、回答の「硬さ(現状維持)」が相対的に強まりうる。
- 時点のズレ:選挙後直後の心理(様子見)で一時的に現状維持志向が高めに出ることがある。
公開資料で検証できるチェックリスト
- 固定/携帯の比率(固定が高ければ高齢偏重の疑い)
- 実施時間帯(平日日中に偏っていないか/夕夜・土日を含むか)
- 年代別の回収分布(65歳以上が母集団≒29%に対し何%か)
- 事後ウエイトの有無・方法
- 有効回収数(n)と信頼区間の明示(±2~3ptの幅を本文に記載しているか)
結論
「57%」という値は、低予算運用(IVR主体)+年齢偏り(未補正)+標本誤差の合算で 統計的に十分に説明可能である。
したがって、選挙結果(投票行動)と乖離していても不思議ではない。 検証には、公表資料の回線内訳・時間帯・年代分布・ウエイト・nと誤差の5点を確認すればよい。
補足:なぜ「偏った数字」をあえて取りに行くのか
ここで重要なのは、調査自体は実際に電話でデータを集めている=“ガチで収集”している点です。
しかし、調査設計を「低予算」「未補正」「高齢層に出やすい時間帯・回線」に寄せれば、 自然と“現状維持=退陣不要”を強めに見せる数字が得やすいという構造があるのです。
つまり、「調査は実査で正しく行った」と言える一方で、「設計上の歪みを放置すれば政府寄りに見える結果になりやすい」という状況です。
これなら、報道機関は「一応データはきちんと取った」と説明でき、かつ政府や与党に都合の良い見出しを打てるわけです。
この構造こそが、「選挙の民意と世論調査の結果が乖離する」最大の理由です。
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